新たなるファイレクシア入門1(前篇)
2011年4月12日 翻訳 コメント (8)A Planeswalker’s Guide to New Phyrexia, Part 1
「新たなるファイレクシア入門」
http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/stf/137
あらゆる世界は変わるものだ。
それが真理、特に我々「渡る」ことのできる者には明白だ。
どの次元も時の流れを無視して、一つの状態にとどまることはできない。
しかし、その次元がもともと持っていた名前が失われる。そのような変化が起きた次元は稀である。
争乱の時代に突入し、その次元で生まれた者にすら理解しがたい存在になる、そのような次元は稀である。
1度ならず作りかえられる、そんな次元も稀である。
この話はかつてアージェンタムと呼ばれていた次元の話。
後にミラディンとして知られるようになった次元だ。
しかしこの世界に再び変化が訪れようとしている。今やそれは3つ目の名前を冠することとなった。
そのような本質的変化が訪れてしまえば、かつて知られたものとて怪しくもなろう。
次元について我々が持っている知識は崩れ、薄まり、色褪せてしまった。
我々がそれを知るためには、新たなものを見つめる目で再び世界を調べ、勤勉をもって記し、かつて真理として知られたことも、確認されるまでは一端置いておくことが必要だろう。
以上の目的のために、我々は満を持してA Planeswalker’s Guide to New Phyrexiaを贈る。
この作りかえられた世界について、あなたが知識を新たにして、安全に滞在するための助けとなるように祈る。
ファイレクシア内の5派閥
ファイレクシアの新たな本拠地について語る上で、真っ先に触れるべくはその内部構造、派閥だろう。
広がり・作りかえるというその使命のため、ファイレクシアの本質は常に進化している。
何年にもわたって「核」の強力なマナに触れたことによって、ファイレクシアは加速的に変化を遂げた。しかし同時にファイレクシアは再分され、5色のマナそれぞれに対応した派閥へと分かれたのだ。
5つの派閥それぞれが独立して独自の信条、クリーチャー、そして統率力を発揮しているのである。
新ファイレクシアについて知るためには必ず、この5色のマナに対応した派閥を知っておく必要がある。
以前のファイレクシアを知っている人の中には、この多様性は驚くべきものに映るかもしれない。
新ファイレクシアについて無知な旅人は、その一部となる運命が課されている。
この章の残りでは、第1の派閥を紹介しよう。
ファイレクシア派閥:正統機械教 (The Machine Orthodoxy)
白マナに連なるファイレクシアは、正統機械教という信仰のもとに組織・統率されている。
大修道士エリシュ・ノーンは、正統機械教の最高位にある法務官である。彼女は「銀白の彫刻」という信条の元、輝かしい未来を約束してファイレクシアを率いている。
「銀白の彫刻」の元にファイレクシアが行うのは、ミラディン世界を完全なるファイレクシアの本拠地として作りかえること……つまり次元単位でのファイレクシア化のようなものである。
正統機械教徒に映るミラディン人の姿は、取り残された不幸な人か、意固地な罪人、そのいずれかである。そのどちらにせよ、更生、あるいは矯正されるのだが。
意志について抱かれている誤解
ファイレクシアは肉体と機械という、物質によって成り立っている文明である。
ファイレクシア人は精神のようなものをもっているが、ファイレクシア人の多くは心、魂、精神といった、他の知的生命の感じるようなものを感じることはない。
知的ファイレクシア人は勿論抽象的な思考を行うことが可能であるが、観念的なこととは無縁であるようだ。
しかし、以上のように物質に基づいた文明であるながら、ファイレクシアには特に支持されている、秩序だった宗教組織が存在する。
矛盾によって生まれた奇妙な「宗教のようなもの」、いや、作られた宗教とでも呼ぶべきか。それが物質信仰:「正統機械教」である。
正統機械教の宗派
ファイレクシアの正統機械教にはいくつかの宗派があり、それぞれが独自の世界を実現させるべくせめぎあっている。
ここではその3大宗派を紹介する。
「一つの肉」派 (Flesh Singularity):究極の融合派
正統機械派には、利己的な自我を排除して、全てを一つにすることを目的として創設された宗派が存在する。
その歪んだ、単純ですらある完全な共同体の概念とは、あらゆる個人の壁を取り払ってしまうことだ。
物事を文字通り行おうとするファイレクシアの流儀は、ここに恐るべき究極の形を見出した。
この宗派のファイレクシア人は、文字通り全てを繋げて単一の、巨大な、生体機械組織を作ろうとしている。その目指す最終形態が他ならぬ「一つの肉」と呼ばれるものだ。
ここでいう「肉」は、生体組織と非生体である物質の両方を指す。ファイレクシア人は、生きているものと死んでいるものを区別しない。死んでいるものも彼らにとって生の一部となり得るからだ。
あらゆる生命が、皮を縫い合わされ、金属は釘で打ち繋げられ、どのような方法によるにせよ、文字通り全ての生命が繋がれたとき、初めて完全なる統一が可能となるのだ。
個という虚構
次元の核の内部に存在する大法官府における大法務官であるイザセル(Izathel)は、全ての生けるものは一つの序列的な組織であるとみなしている。その中では、あらゆるものが欠くことのできない役割を担っていると考えるのだ。
従って、「個」という存在は「役立たず」より性質が悪いということになる。なぜなら個は、統一を脅かすからだ。
個人、中でも特に全体に埋没しまいと強くあがく存在は、狩りだした上で強制的に全体の一部としなくてはならない。
この宗派のファイレクシア人の多くは奇妙にも、個人の行動について関知しない。まるで個々で動くことの力や、ファイレクシアでない存在を認識していないかのようなのだ。
このファイレクシア人の様子を見て取った、反抗勢力のミラディン人の中にはわざと極端に奇抜な行動を取ることで、ファイレクシア人の集団を欺くことに成功した者もいる。
しかしながら、このような奇矯ともいえる作戦は今ではミラディン軍の指導者たちによって禁じられている。というのも、このように常軌を逸した行動を伴う作戦が今や罪深い、異常なものであると「一つの肉」派に認知され、かえって致命的に注意を引くものとなってしまったからだ。
皮膚恐怖症
「一つの肉」派のファイレクシア人は、皮膚に対して強い憎悪、または畏怖ともいえる感情を抱いているらしい。
ファイレクシア人にとって、皮膚、要するに生物の外部を覆っている部分は究極の境界である。皮は外界と己、自分とそれ以外を隔てる存在だ。
統一機械教のファイレクシア人によって行われた殺戮には、残虐で一種儀式化すらしているともいえる皮を剥ぐ行為が付きまとう。
ファイレクシア人が、犠牲者の皮膚に手をつけずに立ち去ることはほとんどないといっていいだろう。
彼らはその手にかけた生物を、光沢を帯びた陶器のようなものなど、個を主張しないと考える物質でほとんど覆ってしまうのである。
(続く)
「新たなるファイレクシア入門」
http://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/stf/137
あらゆる世界は変わるものだ。
それが真理、特に我々「渡る」ことのできる者には明白だ。
どの次元も時の流れを無視して、一つの状態にとどまることはできない。
しかし、その次元がもともと持っていた名前が失われる。そのような変化が起きた次元は稀である。
争乱の時代に突入し、その次元で生まれた者にすら理解しがたい存在になる、そのような次元は稀である。
1度ならず作りかえられる、そんな次元も稀である。
この話はかつてアージェンタムと呼ばれていた次元の話。
後にミラディンとして知られるようになった次元だ。
しかしこの世界に再び変化が訪れようとしている。今やそれは3つ目の名前を冠することとなった。
そのような本質的変化が訪れてしまえば、かつて知られたものとて怪しくもなろう。
次元について我々が持っている知識は崩れ、薄まり、色褪せてしまった。
我々がそれを知るためには、新たなものを見つめる目で再び世界を調べ、勤勉をもって記し、かつて真理として知られたことも、確認されるまでは一端置いておくことが必要だろう。
以上の目的のために、我々は満を持してA Planeswalker’s Guide to New Phyrexiaを贈る。
この作りかえられた世界について、あなたが知識を新たにして、安全に滞在するための助けとなるように祈る。
ファイレクシア内の5派閥
ファイレクシアの新たな本拠地について語る上で、真っ先に触れるべくはその内部構造、派閥だろう。
広がり・作りかえるというその使命のため、ファイレクシアの本質は常に進化している。
何年にもわたって「核」の強力なマナに触れたことによって、ファイレクシアは加速的に変化を遂げた。しかし同時にファイレクシアは再分され、5色のマナそれぞれに対応した派閥へと分かれたのだ。
5つの派閥それぞれが独立して独自の信条、クリーチャー、そして統率力を発揮しているのである。
新ファイレクシアについて知るためには必ず、この5色のマナに対応した派閥を知っておく必要がある。
以前のファイレクシアを知っている人の中には、この多様性は驚くべきものに映るかもしれない。
新ファイレクシアについて無知な旅人は、その一部となる運命が課されている。
この章の残りでは、第1の派閥を紹介しよう。
ファイレクシア派閥:正統機械教 (The Machine Orthodoxy)
白マナに連なるファイレクシアは、正統機械教という信仰のもとに組織・統率されている。
大修道士エリシュ・ノーンは、正統機械教の最高位にある法務官である。彼女は「銀白の彫刻」という信条の元、輝かしい未来を約束してファイレクシアを率いている。
「銀白の彫刻」の元にファイレクシアが行うのは、ミラディン世界を完全なるファイレクシアの本拠地として作りかえること……つまり次元単位でのファイレクシア化のようなものである。
正統機械教徒に映るミラディン人の姿は、取り残された不幸な人か、意固地な罪人、そのいずれかである。そのどちらにせよ、更生、あるいは矯正されるのだが。
意志について抱かれている誤解
ファイレクシアは肉体と機械という、物質によって成り立っている文明である。
ファイレクシア人は精神のようなものをもっているが、ファイレクシア人の多くは心、魂、精神といった、他の知的生命の感じるようなものを感じることはない。
知的ファイレクシア人は勿論抽象的な思考を行うことが可能であるが、観念的なこととは無縁であるようだ。
しかし、以上のように物質に基づいた文明であるながら、ファイレクシアには特に支持されている、秩序だった宗教組織が存在する。
矛盾によって生まれた奇妙な「宗教のようなもの」、いや、作られた宗教とでも呼ぶべきか。それが物質信仰:「正統機械教」である。
正統機械教の宗派
ファイレクシアの正統機械教にはいくつかの宗派があり、それぞれが独自の世界を実現させるべくせめぎあっている。
ここではその3大宗派を紹介する。
「一つの肉」派 (Flesh Singularity):究極の融合派
正統機械派には、利己的な自我を排除して、全てを一つにすることを目的として創設された宗派が存在する。
その歪んだ、単純ですらある完全な共同体の概念とは、あらゆる個人の壁を取り払ってしまうことだ。
物事を文字通り行おうとするファイレクシアの流儀は、ここに恐るべき究極の形を見出した。
この宗派のファイレクシア人は、文字通り全てを繋げて単一の、巨大な、生体機械組織を作ろうとしている。その目指す最終形態が他ならぬ「一つの肉」と呼ばれるものだ。
ここでいう「肉」は、生体組織と非生体である物質の両方を指す。ファイレクシア人は、生きているものと死んでいるものを区別しない。死んでいるものも彼らにとって生の一部となり得るからだ。
あらゆる生命が、皮を縫い合わされ、金属は釘で打ち繋げられ、どのような方法によるにせよ、文字通り全ての生命が繋がれたとき、初めて完全なる統一が可能となるのだ。
個という虚構
次元の核の内部に存在する大法官府における大法務官であるイザセル(Izathel)は、全ての生けるものは一つの序列的な組織であるとみなしている。その中では、あらゆるものが欠くことのできない役割を担っていると考えるのだ。
従って、「個」という存在は「役立たず」より性質が悪いということになる。なぜなら個は、統一を脅かすからだ。
個人、中でも特に全体に埋没しまいと強くあがく存在は、狩りだした上で強制的に全体の一部としなくてはならない。
この宗派のファイレクシア人の多くは奇妙にも、個人の行動について関知しない。まるで個々で動くことの力や、ファイレクシアでない存在を認識していないかのようなのだ。
このファイレクシア人の様子を見て取った、反抗勢力のミラディン人の中にはわざと極端に奇抜な行動を取ることで、ファイレクシア人の集団を欺くことに成功した者もいる。
しかしながら、このような奇矯ともいえる作戦は今ではミラディン軍の指導者たちによって禁じられている。というのも、このように常軌を逸した行動を伴う作戦が今や罪深い、異常なものであると「一つの肉」派に認知され、かえって致命的に注意を引くものとなってしまったからだ。
一つとなっていないものは最後の一片まで発見されるであろう。我々の眼窩はその存在のおぞましさに引きつる。
肉は吸収され、不完全は粛清される。
正統機械教によって、まだ一つとなっていない者、そしてその不完全さが統一の中で抹消されるだろう。
最後の一片が一つとなり、初めて欠けた輪が埋められるのだ。
最後の一片が一つとなり、初めて世界は完全なものとなるのだ。
- 大法務官、イザセル
皮膚恐怖症
「一つの肉」派のファイレクシア人は、皮膚に対して強い憎悪、または畏怖ともいえる感情を抱いているらしい。
ファイレクシア人にとって、皮膚、要するに生物の外部を覆っている部分は究極の境界である。皮は外界と己、自分とそれ以外を隔てる存在だ。
統一機械教のファイレクシア人によって行われた殺戮には、残虐で一種儀式化すらしているともいえる皮を剥ぐ行為が付きまとう。
ファイレクシア人が、犠牲者の皮膚に手をつけずに立ち去ることはほとんどないといっていいだろう。
彼らはその手にかけた生物を、光沢を帯びた陶器のようなものなど、個を主張しないと考える物質でほとんど覆ってしまうのである。
(続く)
コメント
Doug Beyerさんの記事はよく公式にUPされるから上げるの様子見てたんですよね。つってもこの原文は先週公開されたもので時間がたてばたつほど旬は過ぎちゃうから早めにUPしたいっていうジレンマもあったりなかったり。
この記事長い上にファンタジー要素バリバリだから結構難しいですよね。
ただ、すべてを一つにという宗教から考えてノーンさんの悲願が成ることはないなあとちょっと悲しくなった。
続きが楽しみですよ!
やはりですかねえ。霊的使命を感じてやってしまいましたが、公式でよく紹介されるというなら先を越さねばなるまい。
別に分担して訳してもいいんじゃよ?(笑)
難しいですが、訳自体は楽しかったり。
むしろ困るのは用語。machine orthodoxyとか上手い宗教名つけれないかなぁ。英語だと本当に自然なんですけどね。
あざーす!コメント本当に励みになります!
興奮の一端でも伝えられたら光悦至極。
ノーンさんの「考え」や如何に。他の法務官との思想の違いが気になるところです。
頑張って続きを早くアップできるようにしますよ! b
えいちてぃてぃぴー://www.wizards.com/Magic/Magazine/Article.aspx?x=mtg/daily/li/138
こっちをやってみますわ。
内容すっとばしてイラストだけ楽しんでるダメな子なので、非常にありがたいですね^^
完全統一は難しいけどファイレクシアならやってくれそうですねw
明日(もとい今日)は多分、青派閥が紹介されるかもですが、そちらも訳すのですかね?
>その目指す最終形態が他ならぬ「一つの肉」と呼ばれるものだ。
>(中略)
>文字通り全ての生命が繋がれたとき、初めて完全なる統一が可能となるのだ。
これ以上ないほどの狂気が伝わってきました。さすがファイレクシア。狂っとる。
>公式訳
公式とのカブりを避ける簡単な方法としては、1年以上過去の記事を訳すとかでしょうか。
やってみたらやってみたで、すでに公式訳があった、という罠にはまったり、
需要が激減するという難点もあるわけですが……難しいですね。
結論:訳したい記事を訳す。
ヒャッハー!楽しみに待ってるぜぇーっ!!
ドラフト覇王のDさんが訳す記事、気になりますねー。
> 黒と4/3@魔王主任さん
ありがとうございます!
楽しんで読んでいただけたなら何より。翻訳し甲斐のある記事でした。
ちょいとスケジュールには難がありますが、何とか隙を縫って5派閥全て訳せたらいいなと思ってます。
べっ、別にゲームで青が苦手だからって、青をディスってるわけじゃないんだからね?
> re-giantさん
機械正教とか、機械正統教とか、色々と訳語は悩みました。今でも悩んでいます。
公式訳に従っていることの楽さよ。
やはり翻訳をされる方から言語面でコメントをいただけると励みになりますね。
なるほど、やはりバッティングを避けるのは難しいですよね……チームでやってるんじゃないから尚更だなぁ。
個人的にはre-giantさんの「このカードはゾンビですか?」がとてつもなくツボに入りました。訳の手腕もお見事としか。