【翻訳】Infection Spread/感染拡大 by Tom LaPille
2010年11月19日 翻訳 コメント (5)Infection Spreads
Tom LaPille
2010年11月5日
メカニズム的には、感染はファイレクシアの「黒い油」がミラディン中に広がっていく様子を表現したものだ。
ファイレクシアに影響されると汚染と堕落から逃れられなくなるが、まさにその通りで、感染で乗せられた毒カウンターと-1/-1カウンターは永続的に残るようになっている。
感染はゆっくりと、しかし容赦なく「ミラディンの傷跡」に広がっていった……セットが開発されていくと同時にね。
ミラディン軍のカードは、表面上はファイレクシアの魔の手に影響されているように見えないが、感染の影響を免れているカードは実はほとんど存在しない。
今日はその、「感染」-絡みついてとれない魔の油がどんな影響を及ぼしているか見てみよう。
増殖
一番感染の影響がわかりやすいのは増殖だろう。
何せこのメカニズムは毒カウンターと-1/-1カウンターの両方に直接関わっている。
デザイン的に言わせてもらえば、話は簡単だ。
増殖は感染、そして蓄積カウンターと関わっているのだから、セット内に増殖があるというのは大いに頷けることだ。
開発となると、話はもうちょっと込み入ってしまう。
というのも開発の段階になると、構築とリミテッドの両方で上手くいくように増殖カードを作らなければならなかったし、リミテッドが面白くなるようにレアリティも考慮しなければならなかったためだ。
なにせゲームに勝つためには毒カウンターを10個載せるだけでいい。
感染クリーチャーが、他のクリーチャーよりもサイズが小さいのはそのせいだ。
実際プレイしてみると、後半巨大クリーチャーが出てくるようになったら感染デッキは苦しい。
強豪プレイヤーは「詰め (reach)」について語ることが多いんだけど、この「詰め」というのは、デッキの主戦力で相手を削り切れないときに、最後の数点を押しこむ力がデッキにあるかということのことで、《稲妻/Lightning Bolt》や《火の玉/Fireball》の火力や、《踏み荒らし/Overrun》、《幻影の戦士/Phantom Warrior》なんかが該当する。
不幸にしてこれら昔からある火力などの「詰め」は感染デッキでは使えない。
《屍気の香炉/Necrogen Censer》は最後の4点をもぎ取るのに使えるけれど、毒カウンター6個から10個に押し込むことはできない。
増殖はそれを可能にしてくれる。嬉しいだろう?
しかし悲しいかな、没案も含めてデザインのファイルを見てみると、増殖できるカードは大体1回限り、使い捨てでしか増殖できないように作られている。
《着実な進歩/Steady Progress》は最終的に残ったけれど、本当はもっと何かに加えて増殖を行うカードがあったんだ。
ちなみに《伝染病の留め金/Contagion Clasp》は2つ目の増殖能力を使うときに、自身を生贄に捧げるはずだったんだよ。
これら使い捨て増殖カードは感染デッキでは強いけれど、6個毒が載っている相手のトドメになるほどは強くないようになっていた。
こんな風に増殖について考えていたんだけれど、「傷跡」開発でチーフだったMike Turianは、複数回増殖できるカード愛してる。構築でも増殖を中心に据えたデッキを作れるようにしたい。そんな風に明言していた。
こうしてリミテッドでも、増殖頼りで10個の毒カウンターを載せるデッキが作れるようになったんだ。
《荒々しき力/Untamed Might》
結構色々な場所で、《荒々しき力/Untamed Might》について文句が言われていたり、もうわけがわかりません、なんて言っている記事を読んだよ。
一体どうして、こんな感染クリーチャーと組み合わせたら一撃死を起こしてしまうような、言ってみればランダム一撃死みたいなカードをどうしてセットに含めたのか、ってね。
よく聞かれるんだこれが。
《巨大化/Giant Growth》を考えてみよう。
構築で感染を使ったことがある人ならもうわかってると思うけど、《巨大化/Giant Growth》は感染クリーチャーを強くするのに使うとそれはそれは強い。
そして《荒々しき力/Untamed Might》にはお声がかからない。違うかい?
大概は《原初の怒声/Primal Bellow》や《巨森の蔦/Vines of Vastwood》を選ぶはずだ。
つまり感染デッキでは、値が固定の《巨大化/Giant Growth》やその亜種の方が《荒々しき力/Untamed Might》よりも強いということだね。
この《巨大化/Giant Growth》のような固定値のが強いという事実にはすぐ気がついた。
後々になって猛威を振るってからようやくわかりました、という事態は防げたわけだ。
でもこの有効度の差はそんなに悪いことじゃないというのも同時にわかった。
感染デッキ以外では、《荒々しき力/Untamed Might》は《巨大化/Giant Growth》なんかに比べるとそんなに強いわけじゃない。
つまり感染をプレイしているプレイヤーが《荒々しき力/Untamed Might》を一番有効に使えるわけだけれど、実際はそのスロットを別の似た効果のカードに明け渡すということだね。
それにリミテッドの感染デッキで、依然《荒々しき力/Untamed Might》はとても重要な役割を担うわけで、適正だと判断してそのままのデザインで落ち着かせることになった。
開発チームとしても、《荒々しき力/Untamed Might》のせいで巨大になった感染クリーチャーにあっさり毒殺されることがあるというのは承知しているけれど、プレイヤーがそうした経験を経て、プレイングの際に警戒してくれるようになるということを期待しているんだ。
破壊されない
あとコメントで見たのが、「破壊されない」効果が感染と同じセットにあるということに対する当惑についてだね。
破壊されないクリーチャーでも、タフネスがゼロになれば状況起因処理で墓地に置かれるから、感染クリーチャーによって載せられる-1/-1カウンターで「破壊されない」効果を蹂躙できるということだ。
どうして開発チームは「破壊されない」クリーチャーを、「破壊される」ような環境に投入することにしたのか?
まず大きな理由として、「破壊されない」クリーチャーは前のミラディンブロックの一部だったもので、「ミラディンの傷跡」ブロックは「ミラディン」ブロックの続編である部分があるから、ということがある。
もうひとつの理由があるんだけれど、「破壊されない」効果を、感染があることでいっそう引き立てることができるからだ。
説明しよう!
マジックが面白いのは、異なるカード同士が組み合わさることによって、驚くべきカード同士の交互作用が生み出されるためだ。
普通のカードには効くけれど、「破壊されない」カードには効かないという除去はたくさんあるね。
《粉砕/Shatter》、《稲妻/Lightning Bolt》や戦闘ダメージで《ダークスティールの歩哨/Darksteel Sentinel》にご退場願うことはできない。
上みたいな除去でほとんどのクリーチャーを殺せるのにね。
開発にとってこいつは悩ましい問題で、対戦相手のカードに干渉できない状況というのを積極的に作りたくはないんだ。
しかし感染があれば話は違う。
「破壊されない」カードへの解答が必要なら、見つけることができるわけだ。
これは意図して含めた仕様で、不具合じゃないからね。
ライフゲイン
感染があるおかげで「破壊されない」クリーチャーを強くデザインできたのと同じく、ライフを得るカードも質の良いものに仕上げることができたんだ。
ゲームが長くなるから普通、ライフを得るカードはあまりコモンにしたくない。
開発チームの考えはこうだ。
ライフを得るのが好きなプレイヤーは、とにかくライフを得るカードを詰め込むだろう。
しかし開発チームが、リミテッドで一流になり得ないようなカードをデザインすれば、トーナメント志向のスパイクたちは強さを求めて、不本意に長いゲームにはしないだろう、ってね。
「ミラディンの傷跡」では、感染があるおかげでライフゲインに拘るとリスクが付きまとう。
対戦相手がもしかしたら、相手のライフなんか気に掛けない相手かもしれないんだから。
というわけでライフを得るカードは普通よりちょっぴり強くなった。
《シルヴォクの生命杖/Sylvok Lifestaff》、《剃刀のヒポグリフ/Razor Hippogriff》、《ケンバの空護衛/Kemba’s Skyguard》、《生命鍛冶/Lifesmith》なんかはその表れだね。
軽減
「ミラディンの傷跡」
デザイン的に、毒カウンターを取り除く手段は存在すべきでないと思われた。
この点についての意見はすぐにまとまったが、開発の常として、同時に毒対策を考えることになった。
毒については、コモンにダメージ軽減カードを含めることで、ある程度Mark Rosewaterが出してきた制限を回避できた。
「ミラディンの傷跡」では、《魂の受け流し/Soul Parry》や《オーリオックの模造品/Auriok Replica》なんかがそれだ。
いったん受けてしまった毒を取り除くことはできないが、ダメージを軽減すれば毒をそれ以上食らうことはないようにね。
装備品
最後に感染と関係はあるがちょっと毛色の違うカード群として、装備品に触れよう。
デッキによってカードの強さが変わってくるようにしたい、という話をいろいろなところでしてきた。たとえば今の記事では上の方で《荒々しき力/Untamed Might》について話したし、前に増殖について話したとき、《ゲスの玉座/Throne of Geth》が増殖を利用しないデッキには弱くて入らないよう、意図してデザインしたという話をした。
ゲームに幅が出て、新たな発見ができるように、開発チームはこういったカードのデッキにおける価値が上下するように工夫を凝らすようにしているんだ。
「ミラディンの傷跡」には装備品がたくさんある。
どんなデッキだろうと入るような強い装備品ばかり作っても良かったけれど、開発チームとしてはそういうカードに数多く存在してほしくはない。
感染生物の多くはタフネスが1しかないけれど、そんな中で《逆刺の戦具/Barbed Battlegear》を装備するとタフネスが1下がって死ぬので装備できない。これは偶然でも何でもない。
《嚢胞抱え/Cystbearer》のために《逆刺の戦具/Barbed Battlegear》をピックする、というのを聞いたことがないわけではないけれど、《疫病のとげ刺し/Plague Stinger》や《胆液爪のマイア/Ichorclaw Myr》は装備できなくてため息をついてしまうだろうよ。
一方で、金属術デッキはタフネス2以上のクリーチャーが大勢いるので、装備するのに何の問題もないわけだ。
とはいえ感染ならでは輝く装備品も存在する。
《刃の翼/Bladed Pinions》を感染クリーチャーに装備すれば、地上の生物を飛び越えられるし、ブロックに回るにしても大概のクリーチャーにとって超えられない壁になる。
《浸透のレンズ/Infiltration Lens》はもっと極端で、自分だったら感染デッキ以外では使わないね。
しかし感染デッキでは、ブロックしないことで受ける被害が大きいんだから、喜んで詰め込むよ。
《吠える絡みワーム/Bellowing Tanglewurm》
最後にもう一つ、はぐれ的なカードを紹介して終わろう。
《吠える絡みワーム/Bellowing Tanglewurm》は感染能力を持っていない。
しかしもう気付いたかもしれない。緑は感染クリーチャーの色だということに。
《吠える絡みワーム/Bellowing Tanglewurm》はそこまでデッキを選ぶわけじゃないし、《荒廃のマンバ/Blight Mamba》や《嚢胞抱え/Cystbearer》を組み合わせたら、仮に増殖がなくても、最後数個の毒カウンターを押しこむのにいい仕事をするだろう。
とまあ見てきたように、マジックを作るというのは複雑な作業なんだ。
「ミラディンの傷跡」のリミテッドをもうプレイしたなら、今話したことには知ってたこともきっとあっただろう。
でも、もしかすると気づいていなかったこともあったんじゃないかな。
まだ話してないこともあって、中にはこの先も話せないこともあるんだろうけれど。
マジックのセットがどう進化していくか見てみたければ、Great Designer Search 2を追いかけてみてくれ。
最終選考を通った8人に、普段開発チームがやっているようなことをちょっぴり体験してもらうんだが、審査員がなんとコメントするか見れば、きっと学べることが多いと思うよ。
Tom LaPille
2010年11月5日
メカニズム的には、感染はファイレクシアの「黒い油」がミラディン中に広がっていく様子を表現したものだ。
ファイレクシアに影響されると汚染と堕落から逃れられなくなるが、まさにその通りで、感染で乗せられた毒カウンターと-1/-1カウンターは永続的に残るようになっている。
感染はゆっくりと、しかし容赦なく「ミラディンの傷跡」に広がっていった……セットが開発されていくと同時にね。
ミラディン軍のカードは、表面上はファイレクシアの魔の手に影響されているように見えないが、感染の影響を免れているカードは実はほとんど存在しない。
今日はその、「感染」-絡みついてとれない魔の油がどんな影響を及ぼしているか見てみよう。
増殖
一番感染の影響がわかりやすいのは増殖だろう。
何せこのメカニズムは毒カウンターと-1/-1カウンターの両方に直接関わっている。
デザイン的に言わせてもらえば、話は簡単だ。
増殖は感染、そして蓄積カウンターと関わっているのだから、セット内に増殖があるというのは大いに頷けることだ。
開発となると、話はもうちょっと込み入ってしまう。
というのも開発の段階になると、構築とリミテッドの両方で上手くいくように増殖カードを作らなければならなかったし、リミテッドが面白くなるようにレアリティも考慮しなければならなかったためだ。
なにせゲームに勝つためには毒カウンターを10個載せるだけでいい。
感染クリーチャーが、他のクリーチャーよりもサイズが小さいのはそのせいだ。
実際プレイしてみると、後半巨大クリーチャーが出てくるようになったら感染デッキは苦しい。
強豪プレイヤーは「詰め (reach)」について語ることが多いんだけど、この「詰め」というのは、デッキの主戦力で相手を削り切れないときに、最後の数点を押しこむ力がデッキにあるかということのことで、《稲妻/Lightning Bolt》や《火の玉/Fireball》の火力や、《踏み荒らし/Overrun》、《幻影の戦士/Phantom Warrior》なんかが該当する。
不幸にしてこれら昔からある火力などの「詰め」は感染デッキでは使えない。
《屍気の香炉/Necrogen Censer》は最後の4点をもぎ取るのに使えるけれど、毒カウンター6個から10個に押し込むことはできない。
増殖はそれを可能にしてくれる。嬉しいだろう?
しかし悲しいかな、没案も含めてデザインのファイルを見てみると、増殖できるカードは大体1回限り、使い捨てでしか増殖できないように作られている。
《着実な進歩/Steady Progress》は最終的に残ったけれど、本当はもっと何かに加えて増殖を行うカードがあったんだ。
ちなみに《伝染病の留め金/Contagion Clasp》は2つ目の増殖能力を使うときに、自身を生贄に捧げるはずだったんだよ。
これら使い捨て増殖カードは感染デッキでは強いけれど、6個毒が載っている相手のトドメになるほどは強くないようになっていた。
こんな風に増殖について考えていたんだけれど、「傷跡」開発でチーフだったMike Turianは、複数回増殖できるカード愛してる。構築でも増殖を中心に据えたデッキを作れるようにしたい。そんな風に明言していた。
こうしてリミテッドでも、増殖頼りで10個の毒カウンターを載せるデッキが作れるようになったんだ。
《荒々しき力/Untamed Might》
結構色々な場所で、《荒々しき力/Untamed Might》について文句が言われていたり、もうわけがわかりません、なんて言っている記事を読んだよ。
一体どうして、こんな感染クリーチャーと組み合わせたら一撃死を起こしてしまうような、言ってみればランダム一撃死みたいなカードをどうしてセットに含めたのか、ってね。
よく聞かれるんだこれが。
《巨大化/Giant Growth》を考えてみよう。
構築で感染を使ったことがある人ならもうわかってると思うけど、《巨大化/Giant Growth》は感染クリーチャーを強くするのに使うとそれはそれは強い。
そして《荒々しき力/Untamed Might》にはお声がかからない。違うかい?
大概は《原初の怒声/Primal Bellow》や《巨森の蔦/Vines of Vastwood》を選ぶはずだ。
つまり感染デッキでは、値が固定の《巨大化/Giant Growth》やその亜種の方が《荒々しき力/Untamed Might》よりも強いということだね。
この《巨大化/Giant Growth》のような固定値のが強いという事実にはすぐ気がついた。
後々になって猛威を振るってからようやくわかりました、という事態は防げたわけだ。
でもこの有効度の差はそんなに悪いことじゃないというのも同時にわかった。
感染デッキ以外では、《荒々しき力/Untamed Might》は《巨大化/Giant Growth》なんかに比べるとそんなに強いわけじゃない。
つまり感染をプレイしているプレイヤーが《荒々しき力/Untamed Might》を一番有効に使えるわけだけれど、実際はそのスロットを別の似た効果のカードに明け渡すということだね。
それにリミテッドの感染デッキで、依然《荒々しき力/Untamed Might》はとても重要な役割を担うわけで、適正だと判断してそのままのデザインで落ち着かせることになった。
開発チームとしても、《荒々しき力/Untamed Might》のせいで巨大になった感染クリーチャーにあっさり毒殺されることがあるというのは承知しているけれど、プレイヤーがそうした経験を経て、プレイングの際に警戒してくれるようになるということを期待しているんだ。
破壊されない
あとコメントで見たのが、「破壊されない」効果が感染と同じセットにあるということに対する当惑についてだね。
破壊されないクリーチャーでも、タフネスがゼロになれば状況起因処理で墓地に置かれるから、感染クリーチャーによって載せられる-1/-1カウンターで「破壊されない」効果を蹂躙できるということだ。
どうして開発チームは「破壊されない」クリーチャーを、「破壊される」ような環境に投入することにしたのか?
まず大きな理由として、「破壊されない」クリーチャーは前のミラディンブロックの一部だったもので、「ミラディンの傷跡」ブロックは「ミラディン」ブロックの続編である部分があるから、ということがある。
もうひとつの理由があるんだけれど、「破壊されない」効果を、感染があることでいっそう引き立てることができるからだ。
説明しよう!
マジックが面白いのは、異なるカード同士が組み合わさることによって、驚くべきカード同士の交互作用が生み出されるためだ。
普通のカードには効くけれど、「破壊されない」カードには効かないという除去はたくさんあるね。
《粉砕/Shatter》、《稲妻/Lightning Bolt》や戦闘ダメージで《ダークスティールの歩哨/Darksteel Sentinel》にご退場願うことはできない。
上みたいな除去でほとんどのクリーチャーを殺せるのにね。
開発にとってこいつは悩ましい問題で、対戦相手のカードに干渉できない状況というのを積極的に作りたくはないんだ。
しかし感染があれば話は違う。
「破壊されない」カードへの解答が必要なら、見つけることができるわけだ。
これは意図して含めた仕様で、不具合じゃないからね。
ライフゲイン
感染があるおかげで「破壊されない」クリーチャーを強くデザインできたのと同じく、ライフを得るカードも質の良いものに仕上げることができたんだ。
ゲームが長くなるから普通、ライフを得るカードはあまりコモンにしたくない。
開発チームの考えはこうだ。
ライフを得るのが好きなプレイヤーは、とにかくライフを得るカードを詰め込むだろう。
しかし開発チームが、リミテッドで一流になり得ないようなカードをデザインすれば、トーナメント志向のスパイクたちは強さを求めて、不本意に長いゲームにはしないだろう、ってね。
「ミラディンの傷跡」では、感染があるおかげでライフゲインに拘るとリスクが付きまとう。
対戦相手がもしかしたら、相手のライフなんか気に掛けない相手かもしれないんだから。
というわけでライフを得るカードは普通よりちょっぴり強くなった。
《シルヴォクの生命杖/Sylvok Lifestaff》、《剃刀のヒポグリフ/Razor Hippogriff》、《ケンバの空護衛/Kemba’s Skyguard》、《生命鍛冶/Lifesmith》なんかはその表れだね。
軽減
「ミラディンの傷跡」
デザイン的に、毒カウンターを取り除く手段は存在すべきでないと思われた。
この点についての意見はすぐにまとまったが、開発の常として、同時に毒対策を考えることになった。
毒については、コモンにダメージ軽減カードを含めることで、ある程度Mark Rosewaterが出してきた制限を回避できた。
「ミラディンの傷跡」では、《魂の受け流し/Soul Parry》や《オーリオックの模造品/Auriok Replica》なんかがそれだ。
いったん受けてしまった毒を取り除くことはできないが、ダメージを軽減すれば毒をそれ以上食らうことはないようにね。
装備品
最後に感染と関係はあるがちょっと毛色の違うカード群として、装備品に触れよう。
デッキによってカードの強さが変わってくるようにしたい、という話をいろいろなところでしてきた。たとえば今の記事では上の方で《荒々しき力/Untamed Might》について話したし、前に増殖について話したとき、《ゲスの玉座/Throne of Geth》が増殖を利用しないデッキには弱くて入らないよう、意図してデザインしたという話をした。
ゲームに幅が出て、新たな発見ができるように、開発チームはこういったカードのデッキにおける価値が上下するように工夫を凝らすようにしているんだ。
「ミラディンの傷跡」には装備品がたくさんある。
どんなデッキだろうと入るような強い装備品ばかり作っても良かったけれど、開発チームとしてはそういうカードに数多く存在してほしくはない。
感染生物の多くはタフネスが1しかないけれど、そんな中で《逆刺の戦具/Barbed Battlegear》を装備するとタフネスが1下がって死ぬので装備できない。これは偶然でも何でもない。
《嚢胞抱え/Cystbearer》のために《逆刺の戦具/Barbed Battlegear》をピックする、というのを聞いたことがないわけではないけれど、《疫病のとげ刺し/Plague Stinger》や《胆液爪のマイア/Ichorclaw Myr》は装備できなくてため息をついてしまうだろうよ。
一方で、金属術デッキはタフネス2以上のクリーチャーが大勢いるので、装備するのに何の問題もないわけだ。
とはいえ感染ならでは輝く装備品も存在する。
《刃の翼/Bladed Pinions》を感染クリーチャーに装備すれば、地上の生物を飛び越えられるし、ブロックに回るにしても大概のクリーチャーにとって超えられない壁になる。
《浸透のレンズ/Infiltration Lens》はもっと極端で、自分だったら感染デッキ以外では使わないね。
しかし感染デッキでは、ブロックしないことで受ける被害が大きいんだから、喜んで詰め込むよ。
《吠える絡みワーム/Bellowing Tanglewurm》
最後にもう一つ、はぐれ的なカードを紹介して終わろう。
《吠える絡みワーム/Bellowing Tanglewurm》は感染能力を持っていない。
しかしもう気付いたかもしれない。緑は感染クリーチャーの色だということに。
《吠える絡みワーム/Bellowing Tanglewurm》はそこまでデッキを選ぶわけじゃないし、《荒廃のマンバ/Blight Mamba》や《嚢胞抱え/Cystbearer》を組み合わせたら、仮に増殖がなくても、最後数個の毒カウンターを押しこむのにいい仕事をするだろう。
とまあ見てきたように、マジックを作るというのは複雑な作業なんだ。
「ミラディンの傷跡」のリミテッドをもうプレイしたなら、今話したことには知ってたこともきっとあっただろう。
でも、もしかすると気づいていなかったこともあったんじゃないかな。
まだ話してないこともあって、中にはこの先も話せないこともあるんだろうけれど。
マジックのセットがどう進化していくか見てみたければ、Great Designer Search 2を追いかけてみてくれ。
最終選考を通った8人に、普段開発チームがやっているようなことをちょっぴり体験してもらうんだが、審査員がなんとコメントするか見れば、きっと学べることが多いと思うよ。
コメント
そしてリンクとばしました~。
おお、楽しんでもらえたなら何よりだ!
やっぱりみんなに読んでもらえるのが嬉しいからね。
いつも遊んでくれてありがと。そしてリンクあり~。
はドラフトでピックしてみたけど、コイツだけ残って、感染持ちが除去られるとイマイチ。あと、アーティファクト環境なのでブロックされる。
《テル=ジラードの堕ちたる者/Tel-Jilad Fallen》《テル=ジラードの抵抗》
このへんと組み合わさると無双。
そうね、ワームはあまり積極的にピックしにいくカードではないけど、結構売れ残る子だから……感染生物が足りてるか、他にとるものがないときに取るといい仕事するよ。
毒は速攻がモットーなのに、5マナと重いのもネック。2枚取れたら《汚れた一撃/Tainted Strike》と入れてもいいかも。
> Dさん
Dさんの漢の行動に触発されたまでよ……!